「なぜ銅の剣までしか売らないんですか?」を考える (2021年5月)

 「Fラン大学就職チャンネル」という動画をご存じでしょうか。最近は完全にYoutubeに活動の軸を移してしまったのですが、私はニコニコ動画をメインに活動されていた時期から見ていました。内容をざっくり説明しますと、いわゆる「Fランク大学」の就職課にいる人が、学生対応に四苦八苦した話を、フィクションに編集した上で、ゆっくり動画として公開しているものです。投稿する動画は正直にあるあるネタとして楽しめるものや、就職活動に対してためになるものという1面もありつつ、強烈な皮肉を効かせた内容になっているときもあり、非常に面白いです。

 

 もう1つの特徴として、この人の作る動画はよくできた四コマ漫画のように起承転結がはっきりしていて、なぜこの人の動画が面白いのかが(理屈で)説明しやすい内容ですので、私は授業で学生にこの人の動画を見せて分析することで、「よいプレゼンを作るにはどうしたらよいか」を解説した時があります。

 

 で、この人がなぜか小説を書いていまして、それがこの「なぜ銅の剣までしか売らないんですか?」なのですが、これ、完全にビジネスというものの構造を、いわゆるドラクエやFFの世界観の物語として説明した内容です。実際に歴史的にあったことをうまく物語に取り入れて、ビジネスとは、人間とは、ということを主人公が考えていく内容となってます。Amazonのレビューは賛否両論でなかなか面白いです。

 

 この本を読んで私が感じましたことは、簡潔に言ってしまうと、この本はおそらく今の時代の教養小説を目指しているんだと思います。私はもうおっさんで、この本が伝えようとしている内容はすでに知っている事例が多いし、なにより私の中では教養小説として「銀河英雄伝説」がすでに存在しているので(銀英伝のフェザーンと地球教の存在がこの小説の言いたいことのかなりの部分を説明していると思います)、読んでも「はあ、はあ、そうですよね。うまい方法で説明するなぁ。」としか思いません。しかし、こういうことに初めて接する人には衝撃的な内容だと思います。

 

 おそらくなのですが、Amazonのレビューで辛い評価をしている人は、私と同じですでに教養が確立している人なのでしょう。なので、読んでいても「そんなの知ってるよ」と思ってしまって楽しめない。けど、こういうことに初めて接する人には、これは衝撃として受け取られるでしょう。岡田斗司夫氏は「『無職転生』は、今の時代の教養小説になりえる」と言っていましたが、私はもしかしたらこの「なぜ銅の剣までしか売らないんですか?」のほうが、教養小説として歴史に残るのではないかな?と思います。

 

 

 後日追記ですが、ご本人が本の内容をYoutubeで動画にされてますね。面白いので興味のある方はぜひ。