直線形状(線材もしくは板材など)の形状記憶合金(超弾性)は、圧縮荷重(圧縮変形)により座屈させた場合、ある特定の条件下で負の剛性を示します。
形状記憶合金は変形後の除荷により形状を回復しますので、座屈変形も同様に除荷により形状回復が行われます。つまり、この負剛性特性は連続的に使用することが可能です。
負の剛性は正ばねと組み合わせることで準ゼロ剛性状態として使用することが可能であり、準ゼロ剛性を用いることで物体に振動を伝達しない構造、いわゆる除振装置としての応用が可能です。現在、この特性を用いた除振機構、さらにはフォースリミット機構などの実用化のための研究を行っています。
(本研究は、北九州市立大学 佐々木研究室との共同研究です。)
形状記憶合金の座屈特性を用いた除振装置のデモンストレーション
(北九州市立大学 機械システム工学科 佐々木研究室のご研究)
板状形状記憶合金と正ばねを組み合わせることで、準ゼロ剛性状態を形成させ、
それによる除振を行う装置のデモンストレーションです。
除振対象に周囲からの振動が伝達していない様子がわかると思います。
Ti-Ni形状記憶合金は熱エネルギーによって形状を回復し、またその動作温度は90℃以下、いわゆる温水の温度で動作します。
そのため現状では工場や温泉からただ廃棄されている100℃以下の温熱排水からエネルギーを回収するシステムとして、形状記憶合金を利用した熱エンジン(SMA熱エンジン)の開発が行われてきました。しかしこれまで研究されてきたSMA熱エンジンには
① 高出力化を行った場合、耐久性の確保が困難
② SMA素子の冷却が必要であるため、装置が大型化する
などの問題点がありました。そこで高出力化・小型化および耐久性確保といった課題に対応するため、下記の観点からSMA熱エンジンの研究開発を行っております。
① 従来のSMA熱エンジン機構を改良した、新たな機構の考案・試作
② 従来にない新しい渦巻きばね型のSMA素子を使用したエンジンの考案・試作
強制冷却機構により小型化したプーリー型SMA熱エンジンの動作の様子
従来のプーリー型で問題となる冷却部のオーバーヒートを解決し、
かつ小型な機構を可能にした新しいSMA熱エンジンです。
(H.26年度公益財団法人JKA機械工業振興補助事業により製作)
プーリー型形状記憶合金熱エンジンのおもちゃの動作様子
公開講座などで作成している、プーリー型形状記憶合金
熱エンジンのおもちゃの動作様子です。
渦巻きばね型形状記憶合金熱エンジンの動作の様子
渦巻きばね型形状記憶合金素子を使用した熱エンジンの動作の様子です。温水を素子が入れられているアクチュエータ部に流入させると、温水からエネルギーを得て動作します。
対に配置されたアクチュエータ部に、交互に温水と冷水を流入させることで連続動作します。動作によりモーターを駆動させ、発電を行います。発電によりLEDが光ります。電池への充電も可能です。
熱エンジンの動作部分の拡大
一般的なアクチュエータにはモーターなどの動力源と、それを制御する電子回路やセンサー類、および動力を伝えるためのギアなどが用いられています。
しかし形状記憶合金はそれ自身が大きな駆動力をもち、なおかつセンサ機能を持っていますので、これを利用したアクチュエータにはモーターやギア、さらにセンサ類も必要なく、アクチュエータの小型化が可能になります。
さらに、機械的・電気的ノイズが発生しないため、医療機器などに応用展開が可能です。
本研究室では、形状記憶合金を用いたアクチュエータ・医療機器を試作するなどの研究開発を行っております。
抵抗値フィードバック制御による
任意位置での保持が可能な形状記憶合金アクチュエータ
抵抗値フィードバック制御による形状記憶合金アクチュエータです。これまで不可能であった任意位置への移動・保持が可能な形状記憶合金アクチュエータシステムです。
小型で出力の大きいアクチュエータとしての応用が期待できます。
上記の形状記憶合金エンジン、アクチュエータおよび医療機器の開発のためには、形状記憶合金そのものの性能向上がなにより重要となります。
そこで、形状記憶合金の発生力、応答性、耐久性向上のための基礎的物性研究を行っております。